慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD)とは、腎障害が3ヶ月以上続いている場合に診断される腎臓病のことです。自覚症状はほとんどなく、蛋白尿やeGFR測定などで腎機能の異常が発見されることで診断されることが多いです。
日本では慢性腎臓病の患者数が増え続けており、成人の8人に1人が慢性腎臓病に該当すると言われています。慢性腎臓病は、心筋梗塞などの心臓血管病を合併する頻度が高く、無症状のうちに腎機能が低下し、透析や腎移植が必要となる場合もあるため、注意が必要です。
慢性腎不全との違い
慢性腎不全は、数ヶ月から数十年かけて腎機能が徐々に低下し、腎臓のろ過能力(eGFR)が正常時の30%以下となる状態のことをいいます。慢性腎不全は慢性腎臓病が進行することで発症し、腎機能の回復は見込めません。最終的には透析や腎移植をする必要となる場合があります。
慢性腎臓病の症状
初期症状
慢性腎臓病の初期には、自覚症状がほとんどありません。そのため、気づかないうちに進行してしまい、慢性腎臓病の患者数が増加する原因となっています。
進行時の症状
- 夜間頻尿
- 立ちくらみ
- 疲れやすい
- 手足のむくみ
- 息切れ
- 動悸
- 高血圧
など
これらの症状が現れた時には、すでに慢性腎臓病が進行して重度の腎不全になっている可能性が高いです。
慢性腎臓病(CKD)の原因
慢性腎臓病の原因は様々ですが、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満など生活習慣によるものが多いです。
また、慢性糸球体腎炎やネフローゼ症候群などの腎臓病が原因の場合もあります。
加齢も慢性腎臓病を発症する要因の1つであり、腎機能は加齢とともに低下し、慢性腎臓病の患者数は増加傾向にあります。その他には、遺伝によるものや、薬剤によるものなどもあります。
慢性腎臓病(CKD)の検査・診断とステージごとの治療法
診断基準
慢性腎臓病は、以下のいずれか、または両方が3ヶ月以上持続している場合に診断されます。
腎障害の存在
0.15g/gCr以上の蛋白尿がある、または血液検査、尿検査、画像診断、病理診断などで蛋白尿以外の腎障害が明らかである。
糸球体濾過量(GFR)
糸球体濾過量(GFR)が60L/min/1.73m2未満である。
糸球体濾過量(GFR)は、血清クレアチニン値、年齢、性別から推算糸球体濾過量(eGFR)を計算することができ、その値からも診断することができます。
ステージ
CKDステージ | ステージ1-2 | ステージ3 | ステージ4 | ステージ5 |
---|---|---|---|---|
推定GFR値 (mL/分/1.73㎡) | ステージG1 ≧90 ステージG2 60~89 |
ステージG3a 45~59 ステージG3b 30~44 |
15~29 | <15 |
腎臓の働き ・重症度 | ステージG1 正常または亢進 ステージG2 正常または軽度低下 |
ステージG3a 軽度~中等度低下 ステージG3b 中等度~高度低下 |
高度低下 | 末期腎不全 |
症状 | 尿検査や血液検査で異常が見られても、自覚症状はほとんどなし。 蛋白尿が高度の場合は、浮腫が見られます。 |
・浮腫 ・こむら返り ・夜間頻尿 ・易疲労感 |
・浮腫 ・尿量減少 ・高血圧 ・全身倦怠感 ・頭痛 ・嘔気 ・食欲低下 |
尿毒症が進行 ・肺水腫 ・心不全 ・呼吸困難 ・意識障害 |
治療法 | 生活改善 | 生活改善 食事療法 薬物療法 |
生活改善 食事療法 薬物療法 透析・移植の検討 |
生活改善 食事療法 薬物療法 透析・移植の準備 |
治療方法
慢性腎不全と診断されたら、適切な治療を行って病気の進行を遅らせ、末期腎不全に至ることを防ぐ必要があります。慢性腎不全に対する治療方法には、生活習慣の改善、食事療法、薬物療法の3つがあります。
生活習慣の改善
メタボリックシンドロームでも慢性腎臓病が発症しやすくなることがわかっており、禁煙・減塩・運動不足解消・適正体重の維持・節酒などの生活習慣の改善は、腎臓を守る基本となります。
喫煙は腎機能を低下させる原因となるため、禁煙を心がけましょう。メタボリックシンドロームや高血圧の方は、普段の食事を減塩し、適度な運動で肥満を改善しましょう。アルコールは直接慢性腎臓病を悪化させることはありませんが、適正な飲酒量にとどめ、大量飲酒は避けましょう。
食事療法
食事療法は、慢性腎臓病の治療の基盤となります。医師の指示に従って、低蛋白食、塩分制限、カリウム・リン制限を心がけましょう。
慢性腎臓病では、蛋白質の摂取量が多すぎると、老廃物が増えて腎臓に負担がかかります。そのため、eGFR60ml/分以下になったら低蛋白食を開始することが望ましく、体重1Kgあたり0.8g以下に制限します。また、摂取カロリーが不足すると、体内の蛋白質が消費されて老廃物が増えるため、必要なエネルギーを十分に摂ることが重要です。
腎機能が低下すると、余分な塩分を排泄することが出来ず、高血圧の原因となります。そのため、塩分摂取量は、1日6g以下にするのが望ましいです。味付けや調理法を工夫したり、インスタント食品を制限したりすることで、塩分摂取量を減らすことができます。
さらに、腎機能が低下するとカリウムやリンを十分に排泄できず、体内に蓄積されて、高カリウム血症や高リン血症の原因となります。カリウムやリンが多く踏まれている食品(果物類、いも類、緑黄色野菜類、豆類、乳製品、コーヒー、お茶など)の摂取を制限し、茹でて使用するなど調理方法を工夫することが大切です。食事療法で摂取制限が奏功しない場合は、内服薬の服用が必要になることがあります。
薬物療法
薬物療法では、糖尿病や高血圧、脂質異常症や自己免疫疾患などの慢性腎臓病の原因となった病気の治療を行います。これらの原因疾患の治療に加えて、慢性腎臓病が進行した際に現れる症状に対しても治療を行います。具体的には、高血圧の治療、水・電解質のバランス調整、尿毒症毒素の吸着、貧血の治療などが含まれます。
慢性腎臓病の合併症
慢性腎臓病では、腎機能の低下に伴って様々な合併症が現れます。
尿濃縮力障害
腎機能が低下すると、体内の水分量に応じて尿の濃さを調節する尿濃縮力が障害されるようになります。具体的には、尿がたくさん出る多尿や夜間頻尿などの症状が現れます。早期の慢性腎臓病では症状がほとんど見られませんが、尿濃縮力障害は早期から見られる症状です。
高窒素血症
糸球体の濾過能力が低下すると、血液中の尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、尿酸(UA)などの値が上昇します。蛋白質の過剰摂取やエネルギー摂取不足があると、尿素窒素がクレアチニンに比べて高くなり(BUN/Cr比の上昇)、糸球体にさらに負担をかけてしまいます。これが高度になると、様々な尿毒症の症状が出現しますが、通常は透析を必要とするCKDステージ5の末期腎不全までは無症状です。最も多く見られる症状は、食欲不振や悪心などの消化器症状であり、これらの症状が現れると透析開始のサインと考えられています。
水・電解質異常(体液過剰、高カリウム血症)
腎臓は、ナトリウムやカリウムなどの電解質も適切に調節しています。体内に入った塩分(ナトリウム)やカリウムの多くは、腎臓から尿中に排泄されます。そのため、腎機能が低下すると、ナトリウムやカリウムを十分に排泄できなくなります。ナトリウムやカリウムの摂取量が排泄量を上回ると、体液過剰や高カリウム血症を生じます。体液過剰は浮腫や高血圧の原因となり、さらに進行すると、うっ血性心不全や肺水腫を引き起こすこともあります。高カリウム血症は、手や口のしびれや不整脈が出現し、重度のカリウム血症では心停止に至る可能性があります。
代謝性アシドーシス
体内では多くの酸性の物質が多く作られますが、呼吸によって肺から炭素ガスが排泄され、腎臓では酸性物質を尿中に排泄します。これにより、体内のpHは7.35~7.45の弱アルカリ性に保たれます。しかし、腎機能が低下すると、体内のpHは酸性に傾きます。この状態を代謝性アシドーシスと呼びます。代謝性アシドーシスでは、悪心・嘔吐、疲労感、頭痛、不整脈などの症状が現れることがあります。
腎性貧血
赤血球は骨髄で生成されますが、何らかの原因で赤血球が減少すると、腎臓から造血ホルモンが分泌され、骨髄での赤血球生成を促進し、貧血を防ぎます。しかし、腎機能が低下すると、貧血になっても造血ホルモンの分泌が十分に行われず、貧血が徐々に進行します。このような貧血を腎性貧血と呼びます。腎性貧血の主な症状には、労作時の動悸や息切れがあります。
二次性副甲状腺機能亢進症
体内で必要なカルシウムは腸管から吸収されますが、その際に肝臓と腎臓で活性化されたビタミンDが必要になります。しかし、腎機能が低下するとビタミンDの活性化ができず、血中カルシウム濃度が低下します。また、腎機能低下によりリンの排泄が減少し、高リン血症をひきおこします。低カルシウム血症と高リン血症の状態は副甲状腺を刺激し、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を促進します。長期間刺激され続けた副甲状腺は腫大し、血中カルシウム濃度に関係なく、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるようになります。副甲状腺ホルモンは骨からカルシウムを血液中に溶出させるため、結果的に骨がもろくなり、骨折のリスクが高まります。
慢性腎臓病の予防方法
慢性腎臓病を予防するためには、以下のように生活習慣を改善することが大切です。
- バランスの良い食事や適度な運動で、肥満を解消する
- 高血圧、高血糖、脂質異常症の適切な治療を行う
- 食事の減塩をする
- 禁煙
- 過度な飲酒を控える
- 排尿を我慢しない
- 適切な水分摂取
など
日々の生活習慣を見直し、健康的な生活を送ることで、慢性腎臓病の予防につながります。