睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸とは、睡眠中に呼吸が10秒以上止まる状態のことで、ほとんどの場合はいびきを伴います。睡眠時無呼吸症候群は、1時間に5回以上の無呼吸や低呼吸があり、それが熟眠を妨げて昼間に異常な眠気を引き起こす状態です。
睡眠時無呼吸症候群の症状をセルフチェック
「起きている時」「寝ている時」に以下のような症状はありませんか。
起きている時
- 日中に眠気に襲われる
- 居眠りをしてしまう
- 熟睡した感じがしない
- 起きた時に頭痛がある
- 起きた時から倦怠感がある
- 物覚えが悪くなった
- 集中力が低下した
- 性欲が減退してきた
など
寝ている時
- いびきがうるさいと言われる
- 息が止まることがあると言われる
- 息苦しくて目が覚めることがある
- 何度も目が覚めるようになった
- 何度もトイレに行きたくなる
- 寝汗をよくかく
など
睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、無呼吸になる原因によって、閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)、中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)、混合型(両者の組み合わせ)に分類されます。
閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)
睡眠時無呼吸症候群の9割は、上気道が物理的に狭くなることによって呼吸が止まるタイプです。この狭窄は、首やのど周りの脂肪の蓄積、肥大した扁桃腺や舌根(舌のつけ根)、口蓋垂(のどちんこ)、軟口蓋などの組織によって引き起こされます。寝る時に仰向けになると、これらの組織が重力によって気道を狭めるため、特に問題が生じます。日本人の中には、下顎の小ささや後退が気道の狭窄を促進することがあります。いびきは、これらの狭窄した気道を通る空気が発する音であり、横向きになるといびきが止まる場合は仰向けの際に気道が狭くなっている証です。
中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)
中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)は上気道の狭窄や閉塞ではなく、脳からの呼吸指令が正常に出ないことによって呼吸が停止する状態です。OSAでは低酸素状態を察知した脳が呼吸指令を出して呼吸を再開しようとしますが、CSAではその指令が出ないため、体が呼吸を再開しようとする反応が見られません。
CSAは特に心不全との関連が強く指摘されています。慢性的な心不全による一連のメカニズムが、呼吸を調節する信号の伝達に影響を与えます。これにより、無呼吸が心不全を悪化させる可能性が考えられています。
睡眠時無呼吸症候群による合併症
突然死
フィンランドの研究では、460例の突然死事例を調査し、常にまたはほぼ常にいびきをかく人が85人、よくいびきをかく人が88人であり、突然死の37.6%がいびきをかく人であったことが示されました。特に心臓・血管系の問題による突然死は186人(40.4%)であり、内訳をみるといびきをかく人の方が統計学的に有意に多かった報告があります。
他の海外の研究では、34名の睡眠時無呼吸症候群患者を4年間追跡調査した結果、15%の5名が死亡し、その原因として心筋梗塞が3名、肺水腫が2名といった突然死が報告されました。
日本では、2000年に厚生労働省呼吸不全調査研究班が発表した集計があり、294名の睡眠時無呼吸症候群患者を約5年間追跡したところ、17名(5.8%)が死亡しました。その内訳の多くが心筋梗塞や脳梗塞による突然死であり、死亡者の多くが起床後数時間以内に死亡したと報告されています。
高血圧
睡眠時無呼吸症候群と高血圧の合併が多いことはよく知られています。
睡眠時無呼吸症候群患者の約68%に高血圧の合併が観察されたとの報告もあります。
また、アメリカの高血圧合同委員会によると、重度の睡眠時無呼吸症候群(AHI≧20)を持つ患者では、軽度の場合(AHI<15)に比べて高血圧の合併率が1.4倍高いと報告され、症状が重いほど高血圧が合併する頻度が高いことも分かっています。
さらに、睡眠時無呼吸症候群による睡眠時の低酸素血症が動脈硬化のリスク因子の1つである可能性も考えられています。
虚血性心疾患
睡眠時無呼吸症候群のある方は、健常者と比較して虚血性心疾患の発症リスクが1.2〜6.9倍高いという報告があります。
特に狭心症患者の約40%に睡眠時無呼吸症候群が認められ、睡眠時無呼吸症候群の患者には虚血性心疾患が合併する頻度が35〜40%とされています。この関連の原因は未だに解明されていない部分がありますが、睡眠中の覚醒頻度や低酸素状態が交感神経系の活動増強に関与している可能性が考えられています。
また、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられるCPAP(持続陽圧呼吸療法)という装置が、虚血性心疾患の改善につながるという報告もあります。
不整脈
睡眠時無呼吸のある方は、無呼吸時に徐脈(脈拍の遅さ)と、無呼吸後の過呼吸時に頻脈(脈拍の速さ)を繰り返す傾向があります。
海外で行われた400例の睡眠時無呼吸症候群患者の調査によると、洞停止(心拍が一時的に停止する状態)が11%、心室頻拍(重篤な不整脈の一種で死に至る可能性がある)が3%であると報告されています。
糖尿病
睡眠時無呼吸症候群では、糖尿病が約10%、糖代謝異常(糖尿病の前段階)が約15%の割合で合併しています。症状が重症化すると、この合併率がさらに増加する傾向にあります。
睡眠時無呼吸症候群の患者は通常肥満が多く、これがインスリン抵抗性を増加させ、糖尿病にかかりやすい要因として関与していると考えられています。
脳血管障害
脳血管障害または一過性脳虚血発作で入院した患者と健常者を比較した研究によると、AHI(1時間あたりの低呼吸・無呼吸回数)が10以上である割合は、脳血管障害の患者では62.5%、健常者では12.5%であり、脳血管障害の患者で有意に高かったと報告されています。しかし、睡眠時無呼吸症候群と脳血管障害の直接的な因果関係については、現時点でまだ多くの不明な点が存在しています。
多血症
多血症は、血液中の赤血球が異常に増加する疾患で、血液が濃くなり血流が悪化しやすくなります。睡眠時無呼吸症候群における多血症の原因は主に二つあります。1つは無呼吸によりANPという利尿ホルモンが増加し、夜間尿量が増えて血液が濃くなることです。もう1つは無呼吸による繰り返す低酸素状態でエリスロポエチンが増加し、赤血球が増えることです。睡眠時無呼吸症候群と多血症は関連が深く、多血症の原因が不明な患者の中には睡眠時無呼吸症候群が多く見られる報告もあります。CPAP(持続陽圧呼吸療法)を使用して治療することで改善が期待されています。
睡眠時無呼吸症候群の検査
簡易検査
睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合、簡易終夜ポリソムノグラフィー検査・簡易PSG検査ができる検査キットを自宅で装着して就寝し、寝ている間の鼻の呼吸、胸の動き、体位、酸素飽和度、いびきの音などを測定します。測定データを解析して、軽症・中等症・重症を判断し、治療方法をご提案いたします。
精密検査
簡易検査で陽性と判定された方は、精密検査を行います。
終夜ポリソムノグラフィー検査によって、簡易検査では測定できない、脳波や心電図、筋電図などを合わせて測定し、睡眠中の覚醒度や心機能・中枢機能の異常を検知します。中等度の睡眠時無呼吸症候群についてはこの検査によって診断が確定し、さらなる治療が必要かどうかを判断します。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法(治し方)
睡眠時無呼吸症候群の治療方法にはいくつかの方法がありますが、特に治療効果や根拠が明確であるのはCPAP(シーパップ)です。また、肥満の場合、体重減少も一定の効果が期待されています。
治療方法
CPAP療法
「経鼻式持続的陽圧呼吸法」と呼ばれるこの治療方法では、鼻にマスクを装着し、空気を送ってのどが閉塞しないようにします。初めはマスクやバンドでの固定が不快に感じられることもありますが、睡眠時無呼吸症候群の治療において最も効果的な方法です。慣れると熟睡が可能になり、日中の眠気の軽減にも役立ち、死亡率の低下にもつながるデータがあります。
当クリニックでは重症の患者さんだけでなく、中等症や軽症でも日中の眠気が強い方にも、この治療を推奨しており、機器を自宅に設置し、月に一度の通院で治療効果を確認しています。
マウスピース
睡眠中にのどの閉塞を防ぐため、口に装着する装具を使った治療方法です。この装具は歯科口腔外科で患者様のお口に合わせて作成されます。比較的手軽で効果が早く現れますが、顎関節に一定の負担がかかる可能性があります。
手術療法
のどの粘膜を切除する手術方法です。物理的にのどの空間が拡大するため効果はありますが、患者様の負担が大きくなりますので、即座に実施されるものではありません。ただし、扁桃腺が大きくなっている(扁桃肥大)場合は、扁桃腺を摘出することで症状が劇的に改善することがあります。
手術が必要な場合は、専門機関に紹介いたします。
自分でできる改善方法
減量
肥満が始まると、いびきをかくようになる人は多くいます。そのため、逆に体重を減らすことでいびきも減少する可能性が高いと考えられます。体重管理は重要な治療方法ですが、即効性はなく、すぐに結果が現れるわけではありません。
寝る前の飲酒をやめる
お酒を飲んで寝ると、粘膜が腫れていびきをかきやすくなることがあります。晩酌後すぐに寝る方や、寝る前に必ず飲酒する方は、飲酒をやめるだけで症状が改善することがあります。
横向きで寝る
最も簡単な対策は横向きで寝ることですが、閉塞が深刻な場合には効果が期待できないこともあります。また、横向きで寝ることが難しい方も少なくなく、寝てしまうと姿勢を自由にコントロールすることが難しいため、この方法の実効性には議論が分かれています。
枕の高さを調整する
枕が高すぎたり、柔らかすぎたりすると、寝ている間に首が曲がった状態になり、気道の閉塞の一因となることがあります。
枕の選び方で重要なのは、個々の体型や寝姿勢に合わせた高さを見極めることで、立った姿勢を横になった時にも保つことができる枕が理想です。睡眠時無呼吸症候群の場合は、特に横向きで寝ることが推奨されていますので、横向きになった時も苦しくなく、しっかりと頭から首までを支えてくれる枕を選びましょう。